こんにちは。ツムリです。
第81回アカデミー賞の外国語映画賞や第32回日本アカデミー賞最優秀作品賞などを受賞した「おくりびと」
この映画を見た後に葬儀業界に興味を持つ人が増えたとかなんとか。
僕も葬儀関係の仕事をしているので、色々と思うことがありました。
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目次
おくりびと
2008年公開
監督 滝田洋二郎
音楽 久石譲
出演 本木雅弘、広末涼子、山崎努、峰岸徹、余貴美子、吉行和子、笹野高史など
あらすじ
プロのチェロ奏者として、東京の楽団で演奏をしていた小林大悟(本木雅弘)は、楽団の突然の解散により夢を諦め、故郷の山形へ妻の美香と一緒に帰ることにした。
ある日、大悟は求人広告の中でNKエージェントという会社の募集を見つける。
旅のお手伝いと記載されているだけで、職業内容は分からなかったが、割りの良さに面接を決める。
大した面接もせずに、採用になるが仕事内容が納棺の仕事だと分かり、尻込みする大悟。
しかし、強引な社長(山崎努)に押し切られ就職する。
妻の美香には納棺の仕事とは言えず、冠婚葬祭の仕事と言葉を濁した。
大悟の初めての仕事は、納棺師のDVD撮影の遺体役で、白塗りの顔におむつ、その上に浴衣という恰好をさせられた。
またその後、初めての現場では腐乱死体の処理を手伝うことになり、吐いてしまいこの仕事の厳しさを知る。
また少しずつ仕事に慣れてきた矢先、地元の同級生の山下(杉本哲太)に「もっとましな仕事につけ」と非難され、美香にも仕事がバレてやめて欲しいと懇願される。
美香は「仕事を辞めたら迎えに来て」と言い残し実家に帰る。
大悟は仕事を続ける中で、やりがいを感じはじめ、一人でも納棺の現場に行けるように成長していた。
仕事に慣れてきたある日、美香が家に戻ってくる。
美香は赤ちゃんが出来たことを告げ、改めて仕事を辞めてほしいと大悟に伝える。
大悟が答えを出せないでいると、携帯電話がなり仕事が入る。
亡くなったのは、同級生の山下の母・ツヤ子(吉行和子)で、大悟はもちろん、美香も行ったことのある銭湯「鶴の湯」を一人で切り盛りしていた。
大悟と美香が慌てて駆けつけると、社長が到着しており、横たわるツヤ子の横に、山下とその家族が居た。
大悟は、山下家族と美香の前でツヤ子の納棺を行い、心のこもった丁寧な仕事でようやく妻の美香も理解してくれた。
しばらくして、一通の電報が家に届く。
それは亡き母宛てに送られてきた、失踪していた父の死を知らせるものだった。
見どころと感想
主人公・小林 大悟
元チェロ奏者であり、本編では納棺師として成長していく主人公。
口数が多い方ではないが、意志は強くわがままな一面もある。
妻に内緒で1800万円のチェロを買っていたり、納棺と言う偏見がある仕事と分かっても、妻の説得もせずに自分のやりがいの為に続けていたりと一般的に見るとダメ男の部類にはいりそうです。笑
ツヤ子は大悟の幼少期を知っており、優しい子でなんでもしょい込んでしまう子と述べますが、もしかすると頑固なだけかもしれません。
妻・美香
美香はよくできた奥さんでもありますが、一歩間違えれば典型的なダメ男製造機な気がします。
優しくて器量があり、昔ながらの日本人妻のような「3歩後ろをついてくるタイプ」の女性ですが、まだ子供がおらず、自分も仕事をしているからか大悟に甘々です。
信じてるから。好きだから。
それだけで幸せになれる人もいるでしょうけど、生活がかかってくると中々そうもいきません。
その証拠に子供が出来ると、「半端なことはもうしないで。」と母の顔を見せ始めます。
支えるところはしっかりと支え、包み、それでも、無理なことはきちんと無理と言う。
なんて素敵な奥さんなんだ!
大悟が、腐乱死体に触れた日の夜に、精神が少し参ってしまい美香の温度を感じるように抱きしめ、肌に顔をすり寄せるシーンがあります。
ズボンのジッパーを下ろし、下着とお腹がチラリと見えるんですが、腰骨とお腹のラインがすごくキレイです。是非ご覧あれ。
石文(いしぶみ)
大悟のお父さんが、大悟が小さい頃に川で石を拾い、大悟が拾った石と交換します。
大昔のまだ言葉がない頃に、自分の気持ちを伝える為に石を送り合ったそうで、毎年こうやって石を送り合おうと父と約束しますが、父はその後失踪し、結局石の交換はその一度きりでした。
大悟は、父からもらった石を未だに持っていました。
会えたら殴る!と豪語していても、どこかに父の存在を感じていたかったのかもしれません。
そして、妻の美香にも石を送ります。
掌に収まるくらいの白っぽく丸い石。
この意味は、セリフとして語られることはありませんが、石を渡した後に大悟は美香に石文の説明をします。
その中で「つるつるのときは心の平穏を想像し、」というセリフから、一緒にいると心が落ち着く、気持ちが和らぐということを意味していると思います。
石文。僕も大切な人達に送ってみようかなとも思います♪
納棺師について
今作では納棺師の偏見を強く出す為に、納棺の際に身体に素手で触り、そのあとに消毒のシーンがなかったり、美香のセリフ「汚らわしい」だったりと不衛生さを前に出すことが多いです。
恐らく、「死」を扱うことに対するイメージをエンターテイメントに置き換えたからでしょう。
また、僕は葬儀に関わる仕事もしているので、映画のような納棺の現場に立ち会うこともあります。
そのせいか、余計にエンターテイメントに見える部分もあります。
例えば、納棺師の方が、納棺の際に素手でご遺体に触れるケースは稀です。
さっと衣服を治す場合や、長時間触れることがなければ素手も考えられますが消毒は必須です。
それは、人の身体の機能がストップすると、白血球の働きが失われ細菌に対する抑制が効かなかったり感染症で亡くなっている可能性など考慮すると自身にとって感染の危険が伴うからです。
また、納棺の際は、近しいご家族にも手伝ってもらい、手を拭いて清めてもらったり、足袋や手甲などの旅の支度を一緒にしてもらうことが多いです。
少し話がそれましたが、メイクや着せ替えなど含め、納棺師の仕事は故人の尊厳を支えるとても優しいお仕事だと日々感じています。
音楽・久石譲
Departures -memory-
スタジオジブリでも、有名な久石譲さんの音楽がとてもいい。
大事なシーンで流れ出すこの音楽で、より一層世界に引き込まれていきます。
決意と優しさを感じるとても素敵な曲です。
インタビュー
今作が初の映画脚本と言う小林薫堂が脚本の際にこだわったエピソード。
「物語をつくる上で、最初に“石文”を使おうと思ったんですよ。いま携帯電話全盛で、伝える側も伝えられる側もいかに楽ちんに伝えるかという時代じゃないですか。
映画.COMより
それと食について、生きていくための食、つまり命をいただくということ、食物連鎖というか、命のバトンタッチというか、それをテーマにしたいなと思ったんです。
映画.COMより
よりよく死ぬこととはどういうことでしょう?よいうインタビューに答えた本木雅弘さん。
死を意識すれば生が浮上してくるということでしょうね。別れを知れば、出会いという輝きがよりかけがえのないものに感じられると。つまり死に接することによって、今自分が生きていることの尊さを再認識できると……。大げさですがそういうことだと思います。(本木雅弘)
よりよく死ぬこととはどういうことでしょう?というインタビューに対し
シネマトゥデイより
まとめ
そもそもこの映画の発起人は本木雅弘さんだそうで、20代後半で行ったインド旅行で死生観について考えるようになり、その後青木新門さんの「納棺夫日記」という本に出会うことがきっかけになります。
当初、本木雅弘さん自ら青木さんに映画化の許可を得たが、脚本内容に納得がいってもらえず、全く別の作品でやってくれとのことで今作の完成にこぎつけたと。
ここまでですでにドラマがある。
葬儀ってものに対していいイメージは誰もが抱いてはいないと思います。
僕も小学生くらいのときは霊柩車を見ると親指を隠したものです。笑
ただ、近年では葬儀に対する穢れのようなイメージはあまりないように感じます。
地方に行けばいまだ、しきたりの中での儀式として様々なことをやっているようですが、都心の葬儀などはだいぶ簡略化が進んでいるように思います。
そこにはきっと、日本人の宗教観が関係しているのではないでしょうか。
自分の信じている宗派があれば、そのお寺に真っ先に相談にいくものですが、最近のお葬式では、お寺の住職を呼ばないお葬式も多々あります。
色んな形があることは素晴らしいとは思いますし、古く頑固なものが居座り続けるのもイヤですが、儀式には意味があり、思いがあります。
そのすべてを忘れることの無いように、伝えて行くのも僕らの大事な役目ではないでしょうか。
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